本のなかを旅する日々〜かりあの読書日記〜

本大好きのその周辺。思ったことや読んだこと。

わたしは英国王に給仕した

わたしは英国王に給仕した (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

わたしは英国王に給仕した (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)


素晴らしい読書体験だった。

子育てを始めてからどうにも、疲れたり、傷ついたりしなきゃいけないことが一気に押し寄せてきて、(なんで今のこの時期こうもいろいろあるものかねぇ)なんて、疲弊していた毎日で、読む本といえばエンタメやエッセイなど軽めの本ばかりについつい手をのばしていました。文学で取り上げられる重いテーマを今のこの時期に読むと、絶対何かに押しつぶされてしまうんんじゃないかという不安があり、重い本をひたすら積みながらも読めない日々が続く…。でもそれは杞憂でした。「文学の効用」みたいなものを私がすっかり失念していただけだったのです…。私の愚か者!辛い日常であればあるほど、文学は自分にとって救いの手になるんだと改めて痛感しました。


さてこの物語は、チェコのホテルで働く小さな給仕人が主人公であり、語り部でもある。前半語られるホテルの風景の美しさといったら…!談笑するたくさんの人々の声、出入りする詩人やセールスマンたち、床に敷き詰められた紙幣、そして通りの道にばら撒かれる小銭たち、食事をする人々の手元から控えめに奏でられるかちゃかちゃというナイフとフォークの音に、ホールを行き交う給仕人たちの優雅な足音…。どれもこれもが美しく、主人公の目に眩しく写り込んでいる。しかし中盤にさしかかるにつれて、その美しい風景に不穏な空気がさしこんでくる。第二次世界大戦に突入するのだ。それまで、若く、美しいものばかりを素直な目で見てきた「わたし」の目に、徐々に人々の内面に潜む狂気が映ってくる。たくさんの死体やたくさんの悲しい人々が周囲に溢れてくる。それでもなぜか、この「わたし」が見つめる世界は美しい。悲しくとも、美しいのだ。そして後半まで、いや後半からさらに強く、世界の美しさは語られる。

この小説は、解説を読むと「古典的なスタイルをとった教養小説」だと書いてあります。中盤までそういうことは少しも考えなかったのだけれど、後半になるにつれて「死」や「人生」についての考えがどんどん深まってきます。前半あんなにも周囲にたくさんいた人間たちは姿を消してしまい、そばにいるのは猫、犬、ポニー、そして自分自身だけとなり、内省が増えてくる。そこからどんどん私の貼る付箋の数が増えてくるのだけれどw

よみ終わってみれば、なるほど、確かに教養小説かもしれないと思います。それにしても、フラバルという人の小説を今回初めて読んだけど、描写が素晴らしい!他の作品もぜひ読んでみなきゃ…!

嫌なことがあり、むしゃくしゃして近くに積んであったこの本を手にとり読み始めたのだけど、嫌なことも疲れも忘れて毎晩毎晩夢中で読み耽りました。もっと臆せず、どんどんたくさんの本を読んでゆこうっと♪

 

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