本のなかを旅する日々〜かりあの読書日記〜

本大好きのその周辺。思ったことや読んだこと。

遠い太鼓 / 村上春樹

 

 

 

 

すごい旅だったー。ああ疲れた。いい意味で。

 

 

久しぶりの春樹本

 

久しぶりだ。私は村上春樹が大好きだが(だがハルキストという言葉は嫌いだ)完全に作品を読んでしまっているわけではない。この『遠い太鼓』もそれで、未読のまま本棚に10年近く眠っていたのをいまになって引っ張り出してきたのだった。なんでいまなんだろう。

読み始めて思う、「あーこの文体!」と。安定の春樹節にちょっと嬉しくなってくる。

 

 

いちいち笑える

 

これ、私だけなんでしょうかね。村上さんの小説にしてもエッセイにしても、すんごいツボにハマってしまって声を出して笑ってしまう箇所というのが必ず存在する。

本書は特にそれが多かった気がする。私が村上さんの笑いのセンスと相性がいいのかなんなのか、とにかくおかしくなってしまうところが多かった。

 

それから犬がいる。椅子の足もとで、二匹の茶色い犬がごろんと横たわったまま身動きひとつしない。生きているのか死んでいるのか、まったくみわけがつかない。これはスペッツェス島に限らず、全ギリシャで日常的に見受けられる現象である。僕はこれを「死に犬現象」と呼んでいるのだが、とにかくギリシャの犬は暑い午後にはみんなこんな風に、ぐったりと石のごとく眠るのである。

 

そしてこれから家に帰ろうというところで、女房がティタニア映画館のポスターを目にとめて、「ねえブルース・リーの映画やってるわよ」と嬉しそうな声を上げた。彼女はブルース・リーの熱心なファンなのだ。

「おい、またブルース・リーかよ」と僕は言う。おい、またブルース・リーかよ。

 

「君はどこから来たかね?」とイッツ・オーライトのおじさんが訊く。

「イーマステ・アポ・ティン・ヤポニア(僕らは日本から参りました)」と僕は白水社・エクスプレス現代ギリシャ語・荒木英世著の二二ページにある用例通りに答える。

 するとおじさんは「ヨコハマ・ムロラン・センダイ・コーべ」と無表情で列挙し、<さて下の句は?>という風にじっと僕の顔を見る。

 

とまあとにかくツボにはまる。着眼点というか、なんというか、村上さんの視点がシニカルで面白いのだ。

 

 

感想

 

はぁーそれにしてもすごく長かった。569ページ!ほとんどがギリシャやイタリアを中心に旅している旅行記なのだが、この旅行、とにかく移動が多い。村上さん夫婦はぐったりと疲れながらも移動する。

その間に『ノルウェイの森』と『ダンス・ダンス・ダンス』という二つの長編を書いている。なのでとにかく村上さんは疲れ果てているのだ。

イタリアやギリシャというのは太陽の多い明るい国という印象があったし、この旅行記を読んでいてもそれは正しいように思えるけど、しかし本作が描き出すギリシャやイタリアにはいたるところに薄暗い膜のようなものが引っかかっているように感じた。それはきっとこの作品のなかに終始一貫して「疲弊」があるからなんだろうなあと読み終わってから思う。

一緒に旅してきたような、同じものを一緒に見てきたような疲労感が読後、私を襲っているいま。だけど深く満足。

 

 

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